豊中市役所にロダンの彫刻 いつからここに? なぜ「考える人」?
豊中市役所第一庁舎の玄関前にたたずむロダンの彫刻「考える人」の像。
市役所に来られたことのある市民の皆さんや勤務する市の職員にとっては、お馴染みの風景かもしれません。
いつから市役所に? 本物なの? なぜ「考える人」なの?
この像が設置された当時の広報紙や新聞記事など、市に残されている資料を手掛かりに、経緯や込められた想いをたどります。
市庁舎完成を記念して市民から寄贈
当時は庁舎内にあった
「考える人」の像が市役所に設置されたのは、さかのぼること60年以上前の昭和37年(1962年)。新市庁舎(現在の第一庁舎と議会棟)の完成を記念して、市内の篤志家から市に寄贈されました。
フランスの彫刻家オーギュスト・ロダン(1840-1917)の代表作の一つで、実物はフランス・パリのロダン美術館に所蔵されています。高さ約1.8メートル、幅約1メートル、奥行約1.5メートルのブロンズ製で、当時の新聞記事では、実物大の像が設置されるのは日本国内では国立西洋美術館、京都国立博物館に次いで3番目と紹介され、注目を集めていたことがうかがえます。
この像は4月28日に庁舎1階のロビーに据え付けられ、新市庁舎の竣工式が行われた5月2日にお披露目となりました。5月3日・4日の新市庁舎の一般公開には、家族連れなど7千人が訪れたそうです。
新市庁舎の建設は、豊中市制始まって以来、長年の懸案でした。1町3村の合併により豊中市が誕生した昭和11年(1936年)、旧町役場で執務を開始し、昭和13年(1938年)には木造2階建ての仮庁舎を建設。戦後、近隣町村の編入による市域の拡大と人口急増により、事務や課題が増加・複雑化するなか、仮庁舎は手狭で老朽化も進んでおり、市民に不便をかけていました。
新市庁舎の建設が具体化したのは昭和34年(1959年)、市制施行25周年をめざして計画され、翌35年の年末から建築が始まります。
念願の新市庁舎の建築が進む中、記念像を設置しようという話が持ちあがります。新市庁舎にふさわしいものをと検討され、誕生から25周年を迎える豊中市は、これまでは青年期、これからは考える時代である、とのことで、「考える人」が候補に選ばれたのだそうです。また、市民から寄附をいただけることになりました。
当初約3万8千人だった豊中市の人口は、市制施行25周年を迎えた昭和36年(1961年)には21万人を突破。25周年を伝える広報紙には、「市の人口が40万人となる日も遠くない」「遠大な都市計画を確立し、名実共に教育文化の都、大豊中市の建設」と、将来への夢や意気込みが打ち出されています。
その翌年に、ようやく新市庁舎の完成に至りました。
「考える人」には、「教育文化の都」の実現に向けて、しっかりと考えていこうという先人の想いが込められているのかもしれません。
フランス政府の許可を得て、国立西洋美術館の所蔵作品から複製
設置には、一人の市議の尽力がありました。市議が伝手を頼ってフランス大使館に相談したところ、東京・上野の国立西洋美術館が所蔵する「考える人」の像から型をつくって制作する許可を、フランス政府から得ることができました。豊中に設置された像の後部には、「Coppied By Stereo Chozo」の刻印があります。
こうした経緯についての詳細な資料は市には残されていませんでしたが、フランス大使館の好意により実現したものと伝わっています。
また、フランスにある原型から制作しなかった理由として、新市庁舎の完成に間に合わせるため制作期間が限られていたことや、フランスでの制作費・日本までの運搬費等の経費面などが考慮されたようです。
屋内から玄関前へ 文化都市豊中の新しいシンボルに
その後も市の人口は増加し、市役所への来庁者が増えロビーが狭くなるにつれて、「考える人」の像を外に出してはどうかという声が出されるようになります。美術愛好者からも「ブロンズ像は本来、自然光で鑑賞するもの」との意見が寄せられたことから、市は玄関前の現在地に移すことを決めました。
台座や石組み、植栽を整え、文化都市豊中の新しいシンボルとなることを願って、昭和55年(1980年)6月13日に披露式が行われました。
台座の周囲に植えられた市の木・キンモクセイやサツキが今では大きく成長し、咲きそろう鮮やかな花やほのかに漂う香りが、訪れる市民に季節の移り変わりを知らせてくれます。緑青(銅のさび)により変色した像の姿が、歳月の流れを感じさせます。
豊中市は約40万人が暮らす都市へと発展し、市民の皆さんから“住み続けたい”と評価されるまちになっています。「考える人」に込められた先人の想いを受け継ぎ、これからも豊中が選ばれるまちであり続けられるよう、しっかりと考えて仕事を進めていかなければならないと意を強くしました。
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