豊中の夜に輝く幻想的なホタルの光
初夏の風物詩ホタル。
皆さんは飛び回るホタルの光を目にしたことはありますか。今はホタルがみられる場所も少なくなりましたが、実は豊中市は、「螢池」という地名や駅名があるなど、ホタルと縁の深いまちです。
都市化が進んだ豊中市とホタルの繋がりについて、夏の夜に灯るホタルに出会える場所を交えながらご説明します。
ホタルってどんな虫?
ホタルの生態
ホタルはコウチュウ目ホタル科に属する昆虫の総称で世界で約2,000種類、国内では約50種類が生息していると言われています。光を発する虫としてご存じの人も多いと思いますが、実際は昼行性で幼虫の時しか光らない種の方が多いのだそうです。
また、幼虫時代の過ごし方によって、森林など陸の湿地で過ごす「陸生ホタル」と水路や水田などの水中で育つ「水生ホタル」の2つに分類されます。日本でよく見かけるのは水生のホタルです。
ホタルは、清少納言「枕草子」をはじめ和歌にもしばしば登場し、夜に美しく幻想的に光るホタルを鑑賞する「蛍狩り」は古くから日本各地で行われてきました。しかし、都市開発に伴い生息環境が悪くなるにつれホタルの数が減少し、見られる場所や機会は格段に減っています。
豊中市で出会えるホタル
昔は豊中にも水田や用水路が数多くあり、ホタルが育つ環境がありました。
阪急螢池駅が開業した、明治43年(1910年)当時、付近は麻田という地名でしたが、駅の名称は蛍ヶ池という池の名前を取って付けられたと言われています。現在はホタルの姿は見られませんが、かつてはホタルの名所として知られていたようです。明治・大正期の昔懐かしい大阪の風景や風俗を描いた画家・野村廣太郎(1904-2000)は、「蛍ヶ池のホタル狩り夜景」と題した作品に、無数のホタルが舞う池畔風景を残しています。
今でも、豊中市はホタルを見ることができるんです!(3種類も!)
陸生ホタルの「ヒメボタル」と水生ホタルの「ゲンジホタル」「ヘイケボタル」です。
ヒメボタルはカメラのフラッシュのように点滅した光を放ち、ゲンジボタルとヘイケボタルは尾を引くように光ります。
種類が異なると光り方が違うなんてとても興味深いですね。
今回は、ゲンジボタルやヘイケボタルが見られる環境を復活させようと奮闘する、市や学校の取り組みをご紹介します。
豊中でホタルを見守り育てる
ホタル舞う風景をふたたび
かつて昭和30年頃までは豊中市ではゲンジボタル、ヘイケボタルもたくさん見られました。しかし開発が進んでいく中で、ホタルにとって重要な水辺空間は失われていきました。
そのようななか豊中市ではいち早く下水道の普及と処理技術の向上を進めます。それをPRするための象徴としてホタルに着目し、「下水道事業」の一環として昭和56年(1981年)から、高度処理した下水処理水を利用したホタルの人工飼育の取り組みを始めました。
また、原田利倉地区に整備した雨水幹線の上部空間を利用した景観整備を行い、緑の中に人工の「せせらぎ」と、遊歩道を設け親水水路「新豊島川」と命名しました。
新豊島川に流れる水は猪名川流域下水道事務所(原田処理場)の下水処理水を高度処理したものです。その親水水路に下水道部作業課 (当時)が能勢や猪名川 等で採取したホタルの幼虫を、人工飼育により羽化させ放ちました。また、成虫となったホタルの一部は市内の小学校にも贈呈しました。
平成元年(1988年)には親水水路の一部を「蛍の里」として整備し、そこに設置した「蛍ドーム」の中で人工飼育したホタルの一般公開「ほたるの夕べ」を始めました。
現在の「蛍ドーム」は実は2代目で、初代ドームは下水道部作業課職員(当時)が2か月かけて設置しました。補修を行いながら運用していましたが、その後、経年劣化による老朽化により安全性の担保が難しくなったことから、平成22年(2010年)に財団法人空港環境整備協会の助成を得て蛍ドームを現在のものへ修復しました。
毎年蛍ドームで行われる「ほたるの夕べ」は豊中市の初夏の風物詩として親しまれており、毎年何千人もの人が訪れ、幻想的なホタルの光に魅了されています。今年度は七千人以上の人が訪れ、道路警備の関係から、お越しいただいたにも関わらず参加いただけない事態が発生いたしました。今後は皆さまに参加いただけるよう努めて参ります。
ほたるの夕べを終えたホタルたちは都市基盤部維持修繕課の職員によって、維持修繕事務所(勝部)に移動し、産卵を待ちます。一般にゲンジボタルやヘイケボタルのメスは1匹あたり2,000個の卵を産むと言われています。
卵や幼虫は事務所の中で大切に育てられ、羽化を迎えるタイミングに合わせて蛍ドームに放たれることになります。
維持修繕事務所では大きさごとに幼虫を分けケースの中で育てています。ゲンジボタルはカワニナ、ヘイケボタルはタニシという貝を食べて育ちます。カワニナもタニシも事務所の中で育てていて、餌となる葉も用意しています。これらの貝を細かく刻んだものを毎日幼虫に餌として与えています。
水はできるだけきれいな状態に保つために、毎日取り換えています。年末年始など長期の休み中にも交代で作業にあたり、ホタルにとって過ごしやすい環境を整えています。
2~3年育ったホタルは、羽化が「ほたるの夕べ」の開催時期に重なるように、職員が生育状況からさなぎとなるタイミングをはかり、蛍ドームに戻しす。
こうして羽化した成虫が皆さんが見られるホタルとして豊中の夜を彩ります。
子どもたちにホタルや飼育環境を身近に
豊中市では学校や地域に住む人が、ホタルやその他の生物が住みやすい環境を作るビオトープづくりの活動が行われています。
ここではその中の一つ桜井谷ビオトープ「まなビオ」をご紹介します。
「まなビオ」は桜井谷小学校にある池のビオトープです。もともと学校周辺の地域にあった水辺の自然を再生・再現することをコンセプトに、桜井谷小学校創立150周年の節目に「復活!ビオトープ」として取り組みを開始。地域の人と子どもたち、刀根山高校生物エコ部の協力で令和5年(2023年)4月に完成しました。
ホタルを子どもたちに身近に感じてもらう取り組みとして、6月にホタルの観察会を実施しています。ホタルの里親として事前に家庭でホタルの幼虫を育ててもらい、6月にビオトープで、ホタルたちが飛び交う様子を観察するイベントです。たくさんの子どもたちがホタルの光を眺めました。
最後に
今回の取材を通して、改めてホタルがいる環境の素晴らしさを感じました。夜の闇に灯るホタルの光は、幻想的で、どこかノスタルジーを感じさせる輝きを放っていました。
ホタルと共生することができる環境を守ることは、豊中の過去から未来を世代を超えてつなぐ大切な取り組みです。今後も豊中でホタルと触れ合えるようみんなで共生環境を大切にしていきましょう。