廃校から始めよう part.1教室にキノコ⁉
先日、今年の出生数が統計開始後、初めて70万人を下回る見込みというニュースがありました。豊中市でも若年層の人口が減っており、学校のクラス数が1学年1クラスのところもあります。
豊中市では、子どもたちの教育課題を解決するため、特に少子高齢化が進んでいた市南部地域で学校の統廃合を行い、子どもたちにとってより良い学校づくりを進めています。
学校は地域に長く根差し、大切な思い出や歴史が詰まった場所です。
豊中市では、今年度から廃校となった学校の校舎が解体されるまでの期間に教室を貸し出す事業を始め、民間事業者が、あっと驚くプロジェクトを始めました。
今回は、令和5年(2023年)3月で廃校となった市立野田小学校の跡地で、実施されているプロジェクトについてご紹介します。
廃校の暫定利用
今回の舞台となる旧野田小学校は、令和5年に開校した豊中初の義務教育学校・庄内さくら学園に再編されました。令和9年度(2027年度)以降、本格的に跡地を活用するため校舎が解体される予定です。
この2年という短期間でも「廃校」のまま置いておくのではなく「地域資源」として活用しようとの考えから、空き教室を民間事業者に貸付し、地域ビジネスを育てる事業を始めました。
こうした廃校の暫定利用は全国的にも珍しい取り組みです。
入居者は広く公募し、南部地域の活性化のキーワードである「食・音楽・スポーツ・ものづくり」のいずれかの要素を起点とした、事業者を3社選びました。
今回はその第1弾としてすでに始動している「教室で行う農業」を取り上げます。
空き教室で循環型農業?
このタイトルを見て皆さんどう思われましたか?私も実際に見るまでは本当に教室で農業をやっているのか?と訝しんでいました。
空き教室で始まった農業は株式会社ボーダレス・ジャパンによる取り組みであり、「ONE TOYONAKA」と銘打ってキノコ栽培を通じて社会課題の解決をめざす事業です。旧野田小学校の空き教室2部屋でタモギダケとヒラタケの2種類を育てています。育てられたキノコは収穫・包装され豊中市庄内コラボセンターの朝市などで販売されており、まさに地産地消による地域活性化につながっています。
将来的には市内で集めたコーヒーの搾りかすをキノコの培地として栽培を行い、栽培後はその培地をカブトムシの幼虫の餌として活用し、幼虫の糞を堆肥として利用する「循環型農業」の実現をめざしています。
さらに、この事業は「キノコ栽培を通じた障害者雇用の創出」を大きな目的としています。この目的の背景にあるのは、障害のある子どもたちが卒業した後に働く場所が十分にないという社会課題です。この課題を解決するため、障害の有無にかかわらず誰もが作業しやすい環境を整え、安定した収入と働きがいを得られるような職場づくり、居場所づくりに取り組んでいます。
今回は実際に旧野田小学校を訪れONE TOYONAKAを取材してきました。
ONE TOYONAKA
スタッフの中尾さんは株式会社ボーダレス・ジャパンに入社し新卒1年目であった昨年、新規プロジェクトであるONE TOYONAKAの代表として選ばれ、豊中市で活動されています。
旧野田小学校の教室で私たちを迎え入れ、お話を聞かせてくれました。
――このプロジェクトを始めたきっかけは?
私は元々、自殺防止などの社会課題に強い関心があり、社会課題解決の取り組み方を知るためにボーダレス・ジャパンで働き始めました。
入社1年目に、支援学校に在籍している障害者が卒業した後の進路に不安を抱えているという相談が会社にあり、その課題を解決するためにプロジェクトが立ち上がることになりました。その代表として声がかかり、直接、障害者の子どもやその保護者に話を聞いているうちに、私自身の中でこの課題は絶対に解決しなければならないという思いが強まりました。
――なぜキノコ栽培なのでしょうか?
作業が分かりやすく、過度な身体的負担がかからない仕事を思案する中で、最初、中古レゴを洗浄し販売することを考えました。しかし、収支などの点で事業化は難しかったです。その後に、「働きがい」を重要な要素として考えているうちに「農業」にたどり着きました。その中でも、作業もそれほど複雑ではなく、天候などにより体力を奪われることもないということで、キノコ栽培にたどり着きました。キノコ栽培は朝、作業に来てまず収穫をします。その後に菌床の掃除や水やり、収穫したキノコをパックに詰める作業をしています。
――様々な人が参加できるということですね
そうですね。複雑な作業や重いものを持つことも少ないので、誰もが安心して働けると思います。
また、農業に決めた理由でもあるのですが、この仕事は当事者のやりがいにもつながります。キノコが毎日生え、成長していくのを見守り、自分の手で収穫する達成感。そして、販売においてはお客さんと直接言葉を交わせるというのも従業員にとって大切な機会となっています。先日も調理方法をお勧めして、購入した人から「ぜひ食べてみます」と返してもらい嬉しそうでした。それに加え、正社員として自分が働いた分だけ給料をもらうことができることも働きがいにつながっています。
――旧野田小学校に拠点を構えてみていかがですか?
駅から近く通いやすいのが良いですね。障害者の中には公共交通手段での通勤が苦手な方もいますが、ここならバスなどを乗り継ぐことも無く通えます。また、小学校の教室なので建物もしっかりしているし、ビニールハウスを建てたりせずに初期投資も少なく栽培を始めやすかったです。
近くの庄内コラボセンターで開かれている朝市でキノコを販売しているのですが、「旧野田小学校の教室でキノコが作られているの?私もそこに通っていたんです。」と会話のきっかけにもなっています。
――地域とのつながりもできそうですね
地域の方と直接お話しできる機会は貴重ですね。キノコを知ってもらえるきっかけにもなりますし…。
同じ学校の空き教室で事業を行っている方々とも、仲間意識ができてきました。隣の教室はおやきを作る事業所が入っていて、先日はうちで作ったキノコを使用したおやきを試作してもらいました。私も食べてみてキノコと生地の組み合わせは意外でしたが、すごくマッチしていて美味しかったです。地域を盛り上げるためにも、いつかは旧野田小学校全体でのイベントなども開催したいと思っています。
――将来はこの事業をどうしていきたいですか?
まず短期的には、事業のサイクルをすべて地域の中だけで回していけるようにしたいと考えています。市内のコーヒーショップなどから、コーヒーかすを集め、それで菌床を作りキノコを栽培、栽培後に廃棄になってしまう菌床を使ってカブトムシを育て、カブトムシの糞は堆肥として再利用するという循環型農業の仕組みを地域でつくり上げたいです。
コーヒーかすから菌床を作ること、栽培後の菌床でカブトムシを育てることについては現在実証実験中で、目途が立てばすぐにでも、実用化したいですね。そして、豊中のキノコとカブトムシをみんなに知ってもらい、楽しんでもらいたいです。
また、このプロジェクトの目的は障害者雇用の創出と当事者の不安を解消していくことにあるので、この仕組みを全国に広げていきたいと考えています。
もちろん私たちだけでは難しいので、他の会社や事業所とも協力していきます。そうすることによって、社会をより良く変えていきたいです。
また、この事業は旧野田小学校での暫定利用期間が終わったとしても、せっかくのご縁でもあるので豊中市の中でこれからも続けていきたいと思っています。
これから
今回の取材では、まず教室に並ぶ菌床とそこから生えるキノコたちに圧倒されました。よく知った教室には想像を超える光景があり、つやつやのキノコは輝いていました。
実際の作業を見ても色々な人が作業できることが手に取るように分かり、そこで働いているスタッフの方も楽しそうで栽培する喜びを感じ取ることができました。
これからの社会では多様性が大切だと言われています。誰でも参加し働くことができる事業に明るい未来を感じました。循環型農業の仕組みの完成が楽しみです。
旧野田小学校を含む南部地域では、特に人口減少、少子高齢化が進んでいましたが、小・中学校の再編による庄内さくら学園の開校により、子育て世代の人口減少に歯止めがかかり、新たな魅力・活力が生まれることが期待されます。
南部地域活性化の「芽」の一つとして、今回ご紹介した廃校の利用があり、part.1としてキノコ栽培を取り上げました。
今後は他の事業についてもご紹介していきますのでお楽しみに。