高校生世代のひきこもりを防ぐために~若者のための居場所づくりの取組み~
みなさんは“大人”と聞くと何歳以上の人をイメージしますか?あるいは、“子ども”と聞くと何歳くらいをイメージしますか?おそらく、“大人”は18歳以上、“子ども”は中学生(15歳)までを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。では、その間の世代(16歳~18歳)は、大人なのでしょうか、子どもなのでしょうか。
今、この大人とも子どもとも言えない高校生世代(16歳~18歳)への支援が不十分であること、また、支援が途切れがちであることが問題になっています。これは、自治体の子ども関連施策の多くが、乳幼児から中学生を対象として作られてきたことが一因です。
このような社会背景を踏まえ、豊中市は、不登校やひきこもりなどの問題を抱える高校生世代を孤立させないための取組みを6月から始めました。今回は、この「高校生世代のひきこもり未然防止の取組み」を紹介します。
高校生世代を取り巻く状況
豊中市における不登校の児童生徒数は年々増加しています。市内の小・中学生のうち不登校の児童生徒は2019年度に383人でしたが、2022年度には899人と2倍以上に増え、コロナ禍後も依然として減る傾向にありません。また、義務教育修了後も、高校で不登校や中途退学になるケースが増えています。
大阪府全体で見ても同様の傾向が見られ、文部科学省の「令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」によると、大阪府は、生徒1,000人あたりの不登校者数や、中途退学者の割合が全国平均を上回っています。
これに加え、厚生労働省の「令和4年度 こども・若者の意識と生活に関する調査」では、15歳~39歳の広義のひきこもり群(※)の人に関する、次のような結果が出ています。
・現在の外出状況になった最も大きな理由として、「学校になじめなかった」「小学校~大学時代の不登校」「受験に失敗した」と回答した人は20.2%
・現在の外出状況になった年齢が20歳未満の人は14.6%
・現在の外出状況になってからの期間が5年以上の人は17.6%
これらの調査結果から見えてくるのは、10代のうちに不登校や中途退学などを経験した人がひきこもりになる可能性が高いということ、また、一度ひきこもり状態になると長期化しやすいということです。
現在、小・中学校の不登校者数が増加していることから、今後は不登校を理由としたひきこもりが増えることが予想されます。
ユースホーム「できるカンパニー」が始動
このような状況から、市は、高校生世代が不登校や中途退学などを理由にひきこもりになることを防ぐため、高校生世代のための居場所(ユースホーム)づくりに取り組むことを決めました。令和6年1月に居場所の運営を委託する事業者を募集した結果、とよなかTACT(※)が担うことになり、6月に高校生世代のための居場所「できるカンパニー」の運営が始まりました。
できるカンパニーって?
「学校に行けない」「中途退学して日中に通える場所がない」などの生きづらさを感じている高校生世代が、自分のペースで好きなことができる場所、同世代やスタッフと交流できる場所です。できるカンパニーでの活動を通して少しずつ地域や社会とのつながりに慣れてもらうことを目的にしています。
◆所在地:庄内西町4-19-6
(「カレーサンド屋 だらだらするだら?」の店舗をタイムシェアで活用しています)
◆日時:火曜~土曜日 12:00~18:00(祝・休日、年末年始を除く)
◆対象:市在住の高校生世代(おおむね16歳~18歳)
※利用には登録が必要
できるカンパニーの問い合わせフォームまたはメールにて(詳細は「できるカンパニー」のInstagramを参照)
関係者へのインタビュー
できるカンパニー・プロジェクトマネージャーの垣花さんにお話しを聞きました。
活動のきっかけ
私が所属するNPO法人とよなかESDネットワークは、これまで小・中学生の居場所づくりに取り組んできましたが、小・中学生に限らず、高校生世代でも不登校などの問題を抱える人が増えているという状況下で、中学校を卒業した後の高校生世代が通える場所もつくりたいという思いがありました。
そのような中、豊中市がユースホーム事業の委託事業者を募集すると知り、私たちとよなかESDネットワークと、豊中市内ですでに就労支援のノウハウがあるキャリアブリッジ、大阪市内で20年前から不登校児童やその保護者の支援をしている淡路プラッツが、共同体を結成し、それぞれの強みを生かすことで、中学校卒業後の子どもたちの受け皿になるような居場所をつくろうということになりました。
できるカンパニーでの過ごし方
できるカンパニーが開いている時間は、利用者は自由に出入りできます。来る時間、帰る時間、来る頻度、何をするかは自由です。2階の部屋で寝転んでゆっくり過ごす人もいれば、誘い合わせて将棋をする人もいます。好きなように過ごして、ここから学校やアルバイトに直接行く人もいます。スタッフ1~2名が常に居ますが、基本的にはスタッフから彼らに話しかけることはありません。一人一人に自分のペースがあるので、私たちは彼らが生活の中で疲れてしまわないように傍で見守り、向こうから話しかけてくれる時は、本人が何を望んでいるのか・何がしたいのかを聞き取り、それをこの場所で実現できるようにします。
不定期ですがイベントも行っています。先日は、学生ボランティアの提案でパン作りをしました。これまであまり言葉を交わしていなかった人たちも、手を動かしながらリラックスして、自然と日常のたわいもない話をしていました。また、自分たちで手作りした出来立ての温かいパンをみんなで食べるという経験ができました。このようなイベントを継続して行うことで、自然と交流が生まれるような空間を作っていきたいです。
今後の取組み
現在、学生ボランティアや地域の方々の協力を得て活動しています。課題を抱えている高校生世代が自らどこかに支援を求めるのは難しいので、支援が必要な人がいるという情報をキャッチすることが重要になります。
このため、「できるカンパニー」を地域に広く知っていただき、私たちに情報をつないでもらえるよう、今後さらに地域の人・団体との連携を深めていく必要があると感じています。また、さまざまな人・団体と連携することで、できるカンパニーに通う高校生世代がボランティア体験や職場体験など多様な経験ができる場所と機会を増やしていきたいです。
高校生世代のひきこもり未然防止事業を担当するくらし支援課の職員に話を聞きました。
くらし支援課では、生活困窮者支援や就労支援、若者支援を実施しており、これらの支援の一環として、ひきこもり状態から社会に出ようとする人への支援も行っています。不登校やひきこもりが長期化すると、社会経験が希薄になり、就労までの時間が長くなるケースが多く見られます。
小・中学校の不登校児童生徒数が増加する中で、市との関係が希薄になる高校生世代向けに家庭・学校以外の居場所をつくり、支援をしていこうとこの事業が始まりました。
生きづらさを抱える高校生世代の若者が、安心して自分らしく過ごせる場所としてできるカンパニーを訪れ、ここで他者と関わりながら、さまざまな経験をすることが社会的に自立する一つのきっかけになればと思います。
また、居場所のほかにも市の若者支援総合相談窓口があります。困っていることやつらいことがあれば、一人で悩まずに、こちらにも相談していただければうれしいです。
子育てしやすさNO.1をめざして
高校生世代のひきこもり未然防止のための居場所づくりはまだ始まって4カ月です。この取組みが一つのモデルケースとなり、関わる人・団体が増えることで、高校生世代やその家庭に対するより手厚い支援につながることを期待しています。
豊中市は、昨年度から「子育てしやすさNO.1」を掲げて、子どもを出産する前から子どもが成人するまで、子どもと保護者に切れ目ない支援をするべく、さまざまな子育て支援施策に取り組んでいます。これからも、子育てしやすいまち豊中の取組みを紹介していきます。
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