豊中をシリコンバレーにしたい人
豊中に住み、働き、学び、活動する人々には、素敵にかっこよく生きている人たちがたくさんいます。豊中市公式noteでは、豊中でいきいきと活動している人にスポットをあてたインタビュー新連載を始めます。彼らが語る「豊中で豊かに生きる力」をヒントに、読者の皆さんご自身の「生きる力の種」を見つけてほしいと願っています。
第1回は、庄内でWebマーケティング事業を展開する株式会社Cloud Illusion(クラウドイリュージョン)の経営者・大隅直人さん(28歳)です。
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豊中の”アベンジャーズ” 大隅直人さん
「豊中の好きなところは、優しい人が多いこと。特に庄内の人は本当に優しいですね。僕はたくさんの人たちに支えられて、今、豊中で頑張れていると実感しています」
満面の笑みを浮かべてそう語る大隅直人さん。大隅さんに会うには、庄内駅前「サンパティオ」の3階を訪れてみてください。ここには大隅さんの会社が運営するクリエイターのコミュニティ「Toyonaka Venture」(トヨナカベンチャー)があります。
大隅さんは大学卒業後、IT系ベンチャー企業に勤務し、入社半年で事業部の責任者に就任しました。その後ヘッドハンティングされた会社では、わずか3カ月でWebマーケティング部のマネージャーに。そして26歳で自分の会社を設立したというすごい経歴の持ち主です。そう聞いて、私は勝手に「クールで冷酷なイケイケのITベンチャー起業家」をイメージしていたのですが、目の前に現れた大隅さんは、それとは真逆の「人間味溢れるお人柄丸出し!!」といった印象の人でした。瞬間で仲良くなれそう!
起業するも大赤字。キャッシュも足りず、泣き暮らす日々
――いい人そうに見えるんですけど、ご経歴、合ってますか?
たぶん(笑)。僕、新卒でWeb系のベンチャー企業に入社したのですが、そこが大手上場会社に吸収されてしまったんです。CS事業部の配属でホームページの制作をメインにSNSやMEO(注:Map Engine Optimization/Google マップ上で検索上位にするための施策)をやっていました。CS事業部だけでも15人ぐらい社員がいたのですが、半年後に全員が辞めてしまい、僕だけになってしまいました。新人が入社半年で事業部の責任者ですよ。営業やら戦略やらマーケティングやら、もちろんホームページ制作も全部自分1人でやらないといけなくて、とりあえず1年間はやり切りました。
その後、別の会社にヘッドハンティングされました。6人の立ち上げメンバーでホームページや動画、戦略など自分で全部やらないといけない状況でしたが、「何が正解かも全くわからない」中、ほとんど手探りでやり、3カ月でWebマーケティング部のマネージャーになっていました。
実はその間に、飲食店に投資をしているんです。モツ鍋屋にダイニングバー、そして海鮮と焼肉屋です。1年の間に4業態の飲食店に投資をしていました。経営にも携わっていたので、職人さんとの駆け引きなどもしょっちゅう。「お前みたいな若造に何がわかんねん」と言われながら、25歳の僕が、40~50代の年上の人たちを相手に偉そうにやり取りをするわけです。
――会社勤めをしながらも、飲食店の経営ですか!?
「僕がお金出してるんだから(言ったとおりにしてくれ)」と知ったような話をするのですが、うまくいくはずがありません。結局、失敗して早々に撤退することになりました。そして26歳になって会社勤めを辞めて、豊中で株式会社Cloud Illusionを起業します。その半年くらい前に、個人でカフェを始めていたんですけど、カフェをやりながら僕の得意分野であるWebマーケティングを軸にした会社をやりたいと思って立ち上げたんですね。
――おお!やっぱり絵に描いたようなIT起業家という感じです。
というと聞こえはいいのですが、起業1期目は売り上げも上がらずに正直ボロボロでした。頼みのカフェも順調だったのは最初だけ。僕の悪い癖で、新しいものを作ったらそれで満足してしまい、また別の新しいことをやりたくなるという欲が出てしまった。せっかく新規事業を立ち上げても、他人にすぐ任せてしまうんですよ。
――継続できない根本的な理由は何なのですか?
要は、経営そのものが全然わかっていなかったんですね。人を育てることもできてなかった。今はさすがに少し成長して考え方も変わりましたが、起業したての頃はとにかく自分の思いだけでガンガン突っ走っていただけでした。1期目は大赤字で終わってしまいました。
創業時から何とかしないととは思っていて、カフェの1階をオフィスにして、社員を2人雇用して別に人材事業も手掛けていました。完全アウトソーシングの形態でしたが、彼らの固定給の出費もけっこう大きかった。
さすがに2期目からは変えないといけないと思い、体制を変えたり、補助金の申請をしたり、とにかく知恵を絞りました。この「サンパティオ」のコワーキングスペースも豊中市産業振興課のチャレンジ事業補助金を使わせていただいて事業を始めることができました。そのタイミングで、庄内駅前のシーシャバー(注:水タバコが吸えるバー)にも出資して、さらに小規模持続化補助金が通ったことでマツエクサロン(注:まつ毛のボリュームや長さを増すまつ毛エクステンションを専門とする美容サロン)にも投資。トータルで900万円のキャッシュが必要になったんです。なんとそのタイミングで、頼りにしていた従業員が離れていってしまいました。
――大隅さん、独りきりになってしまったのですか?
Webマーケティングの事業は少しずつ順調に行き始めていたのですが、僕しかいなくなってしまったので手が回らない。慌てて社員を採用したんですけど、蓋を開けたら誰も教育する人がいない状態ですよ。要は僕しかいないわけですから、新規採用をした2人とも「この会社、本当に大丈夫ですか」と不安になったようで。僕、初めてその時、「このままだと会社が潰れるかも」と思いました。
今だから全部話せるんですけど、2期目の最初の頃、キャッシュが足りなかったんです。計画どおり事業を実行するには、手元に500万円も不足している状態でした。銀行に何度も足を運んで融資を頼んでも断られ続けました。コワーキングスペースもマツエクも始まったばかりだし、入社してくれた社員にも教えていかないといけない状況でしたが、この頃の僕はそれどころではなくて、毎日クライアントからのクレーム対応に明け暮れていました。
――想像するだけで、恐ろしいです。
ちょうど今から1年前ですね。この頃がめっちゃしんどくて、毎晩泣いてました。うちの会社を離れていった従業員というのは、僕が右腕みたいに思っていた人だったんですよ。ですが、その人に事業ごと持っていかれた。信頼して任せっぱなしだったので、僕もメンタルをやられてしまって。その上、もう1人いたスタッフも病気で倒れてしまったんですよね。ただ、後々聞いてみたら病気というより、要は離れたかったということだったようです。
新しい社員たちが入社して来た時には、「キャッシュがない」「新しいコワーキングを始める」「マツエクサロンも始める」「シーシャバーも始める」「でも周りには相談する相手もいない」。マジでどうしようって、毎日病みました。とうとう税理士に赤裸々に伝えて「もう無理です」と話をしたところ、フレキシブルに対応してくれて、お金を借りるため銀行に一緒に行って交渉しますと言ってくれるし、費用もいらないから資料を作ってあげると言ってくれるし、本当に親身になってサポートしてくださったんですよ。普通、税理士さんがそこまでやらないですよね。おかげでなんとか800万円借りることができたんです。それで会社の命がかろうじて繋がりました。
――逃げなかったのですね。だから人を大切にする気持ちが人一倍強い。
僕はこの税理士さんしかり、場所を提供してくれたサンパティオの社長さんしかり、たくさんの人達に助けられて今があると思っています。皆さんがいなかったら、間違いなく会社はなくなっていた。だから、僕は人を大切にしたいんです。自分がやるんだと起業を決意して、豊中を活性化させて教科書に載る人物になるんだっていう思いが強かった。会社を捨てて逃げるのは絶対に違うと思っていましたし、自分の使命なんだと確信していたんです。使命だから「自分がやり遂げないと終わらない」と決めているので、死ぬ気でがんばろうと踏ん張れたんだと思います。
自分の使命は何なのか、徹底的に考えて言語化する
――お金を借りることができて首の皮一枚つながったわけですが、それから何をされたのですか?
このコワーキングスペースの奥にある壁をぜひ見ていただきたいのですが。今は「Toyonaka Venture Wall」と書いてあるんですけど、最初は「Cloud Illusion Wall」と書いていました。僕の会社名です。でも今の僕の考え方のままだったら、会社名を刻んでも駄目だと気づき、「そもそも僕のやりたかったことは何だろう」と必死になって考えたんです。最初の「豊中を何か盛り上げたい」という漠然とした思いを言語化すると、「豊中をシリコンバレーに変える」ということに行き着きました。僕みたいにこれから挑戦していきたい人が豊中にはいっぱいいるはずだから、「Toyonaka Venture」にしようと思って。急いで「Toyonaka Venture Wall」に名前を変えて、壁を全面張り替えてもらいました。お金がないのに(笑)。
そこから一気に流れが変わりました。ちょうど僕の相方であり同じ豊中出身の佐藤尚功という者がいるのですが、彼に一緒にやろうと声をかけました。気が合うんですね。佐藤は映像クリエイターとして出始めた時だったし、僕も会社が危機だったので、お互いとにかく「Toyonaka Venture」を盛り上げようぜとなって、本格的にエンジンがかかった。会社の売り上げも4~5倍ぐらいに上がりました。
――会社の売上のベースはマーケティングなんですか?
そうです。1期目がうまくいかなかったのはなぜか考えました。自社の強みであるマーケティング事業の見せ方とか伝え方が下手だったんです。実績が出てるのにそれを表に出さず、営業活動も全くしていなくて、紹介制で仕事を受けていた。それが、会社の強みや実績を上手に見せることができると、クライアント企業さんから「すごくいい結果になったから、他社にも紹介したいけどいい?」みたいなお声がけをいただけるようになっていったんですよ。今は、大体月間で15件ぐらいのWebマーケティング案件が動いています。
――大隅さんのマーケティングの強みを教えてください。
僕のこだわりは「必ず成果を出す」ということです。結果が出なかったとしても出なかった理由を突き詰めて、しっかりとそのお客さんの課題解決ができるような形に持っていこうということです。そのために、僕が一方的に「こうやりなさい」とコンサルするのではなく、「考える癖をつける」ということを、僕のCloud Illusionでもそうだし、「Toyonaka Venture」でも同じマインドを持ちながらやってもらっています。もっと簡単に言うと、例えばPR動画だけ作って終わりじゃなくて、その動画を作って具体的に何がどう改善されるのかというところまで考えてもらうということですね。それが僕たちの一番の強みだと思っています。
豊中をシリコンバレーに変えたい
――豊中にこだわっているのはなぜですか?
僕は豊中の庄内という下町で起業しましたが、名刺を渡すと住所を見て「どうしてここで?」と言われるような経験もしてきました。だから、豊中をシリコンバレーに変えたいと本気で思っています。豊中に住んでいる人だけではなく、梅田などの都会で働いてる人たちも庄内駅でわざわざ降りるようになったらおもしろいんじゃないかって。今、「Toyonaka Venture」には50人のクリエイターが集まっています。同じサンパティオの3階に撮影スタジオ「studio note」を作り、さらに旧野田小学校を利用したスペースも稼働し始めました。月額9800円で入会すると、テーマパークみたいな形でスタジオや機材が全部無料で使えるようになっています。今はサンパティオから発信していますが、全国から注目される豊中のクリエイターの聖地を作りたいです。きっと3年くらいで豊中はシリコンバレーのようになっているはずです(笑)。
――人々を豊かにしたいという使命感が大隅さんの原動力になっているのでしょうか?
僕は人としての使命は「地方創生」を掲げていますが、会社としての使命は「アイデアで人を豊かにする」と宣言しています。自分の使命が「地方創生」という理由は二つあります。一つ目は、会社の大きさとかビジネスの規模など関係なく、あるいは日常生活の中にあっても、「やってもらってありがとう」「おかげで良くなったよ」というマインドを大切にしたいという思いが根本にあること。これは僕の会社Cloud Illusionのビジョンでもあるし、「Toyonaka Venture」のビジョンでもあるんです。例えば僕たちがどれだけ大きい案件をいただいたとしても、一方でこの地元豊中でおじいちゃんやおばあちゃんが経営しているような会社やお店が、破綻しそうだから助けてくれと言われた時には、ちゃんと手を差し伸べようというマインドはとても大事にしています。
もう一つが、「どうせ生きているんだったら、教科書に載るような人物になりたい」という強い思いです。つまりどれだけ社会貢献できたかということなんだと思うんですね。ちょっとクサい話をしますが、前職の時に出張で飛行機に乗っていたある日の夜、上空から地上を見た時にポツンポツンと家々の灯りで輝いている街の光が、僕にはスマホの光に見えて、Webを使えばより多くの方々にサービスを提供し満足いただけるのではないかと気づきました。その時に、Webを使ったサービスに振り切って、街や人々が豊かになるための課題解決をやっていく団体を作りたいなと思ったんですよね。「ありがとう」のマインドと「Webのサービスで多くの人々の悩みや課題解決をしたい」という使命感、この気持ちが僕が目指している「地方創生」の根っこにあるんです。
アイデア×マーケティングの掛け算で人々を豊かにする
――人々が豊かになるには、何がネックになるのでしょうか?
僕は「アイデアで人々を豊かに」という経営理念を掲げているんです。例えば知らない業者さんからたまたま電話がかかってきて、勧められるままにSNSをやってみたけど、全然効果がなかったという話があるとすると、その人はもう今後一切SNSはやらないかもしれない。もったいないですよね。でも「Toyonaka Venture」がすごい団体になってコミュニティのブランド力がついてきたら、「迷ったらToyonaka Ventureに相談してみよう」と思われるようになってほしいんです。誰か特定のクリエイターがすごい!という個人名でのブランディングではなくて、「Toyonaka Venture」のサービスそのものがすごい!というところに価値をつけていければ、コミュニティ全体としてのブランド力がついていくと信じています。この発想が「豊中をシリコンバレーにする」に繋がっています。僕が一人で経営を悩み失敗した経験から思うようになったのですが、個々の一人ブランディングでは長く続かないんですよ。
――大隅さんのアイデアはどこから生まれてくるのですか?
それ、よく聞かれます。僕の場合、アイデアは全部「盗んでいる」だけで、それを「掛け算する」だけなんです。どういうことかというと、僕はメモ魔で、道を歩いていてもすぐにメモする。たぶん月間で500個以上はメモを取っています。気になったキャッチコピーとか、見せ方が上手な飲食店のメニュー表や看板とか、「なぜ流行ってるのか」というところを考えてメモするんです。マーケティングというと多くの人はTikTokとかインスタグラムを分析するんですけど、僕は普段からアンテナを張っています。「何でこんなに人が並んでいるんだろう」とか「何でこんなに繁盛しているんだろう」とか、お祭りでも「そんなにおいしくない店なのに、どうしてここだけ行列になっているんだろう」などと考え、自分なりにそれを「分解して」自分の言葉としてメモに残しておく。すると、自然とアイデアの引き出しが増えていくんです。要はたくさんインプットしたものをアウトプットしてるだけ、それがアイデアになっている感じですね。そこまでする?と言われるくらい、メモ魔に徹していると思います。
それと、もう一つ大事なのは「数値」だと思っています。数値と分析に強みを持ちましょうとクライアントさんにもよく話しています。例えば、中華屋さんで「餃子推し」のお店があるとします。でも売り上げの結果が餃子よりもラーメンの数値のほうが高かったら、それはラーメンを推したほうがいい、ということです。どうしても餃子でいきたいというならば、餃子のコンサルを入れるなどしてやり方を変えないと無理でしょう。つまり、数値は絶対に嘘をつかないので、自分の感覚だけで判断してはいけない。アイデアが出てきたら、それが世の中に受け入れられるのかを数値で分析しようということなんです。当たっていたらそのまま推進すればいいし、外れていたら違うやり方をしないといけない。やり方を変えてみるというのは、中華屋さんのケースで言えば、餃子に別のエッセンスを与えることで数値が伸びたとすると、それは戦略として当たり、ということになりますよね。数値が大事というのは、Webマーケティング上は、例えばインスタグラムのフォロワーが表向き増えていったとしても、それがホームページへの流入にどれだけ繋がっているのか、さらには本当に来店数が伸びているのか、という数値をしっかり見る必要があるということです。要は「どこをゴールにするのか」ということに尽きるのですが、これがブレてしまうお店や経営者が結構多いんです。だから、まずはゴールをいかに設定するか考えて、「あれちょっと違う路線に行ってるな」と気づいた時に、ゴールを見直すということがとても大事なんです。それが数値のロジックになっていれば、マーケティングで間違えることはないんです。
――Cloud Illusionという社名に込めた思いを教えてください。
Cloud Illusionは、ロゴマークが雲のデザインになっています。縦に3本線を引いていますが、これは近江商人の「三方よし」の意味を込めています。僕ら目線で見れば、このCloud Illusionというのは3人、まずは3人の優秀な人材がいなければ成り立たない会社だと思っています。逆にお客さん側から見たこの3本線とは「売り手よし買い手よし世間よし」。そして「誰がやったのか=僕たちがやったんだ」ではなくて、「クラウドなんですよ」というのが重要なんです。要は空の上からサービスが降ってくるというイメージです。イリュージョンという言葉は魅了させるという意味だと僕は認識しています。お客さんがそのサービスを使って満足してくださったとしたら、誰が作ったサービスなのかということや、大隅直人という名前は出なくていい。サービスが良ければそれでいいと思っているので、この『三方よし』の雲が空から降ってきて、サービスを使ってくださるお客さんを魅了させるという思いをCloud Illusionという名前に込めました。イリュージョンの最初の三文字「I(アイ)」「l(エル)」「l(エル)」というのが3本線になっているんです。
――コミュニケーションの取り方は何か気をつけていますか?
シンプルに「相手が嫌がることは絶対言わない」ということだけですね。だから、自分が一方的に喋ることがないように気をつけています。できるだけ聞き手側にいたい、というのは、僕が言っていることがすべて正解とは限らないからなんです。つまり「相手を否定しない」ということです。
「Toyonaka Venture」の50人のクリエイターに対しても、「上下関係はない」ということを大事にしています。一応、僕が「代表」ということになっていますけど、僕は単に創業者であって、コミュニティの中ではみんなが平等なんです。フラットな関係でいたいと思っているから、全員と友達感覚で話しています。そのほうが本音や本性でコミュニケーションできますからね。
個人の成長よりも「場の成長」を目指す。それが豊中の成長に繋がる
――クリエイターにはどんなことを期待しているのですか?
海外ではDAOという分散型自立組織の仕組みがあるんですけど、クリエイターにはまさにそんな働き方を求めています。オンラインとオフラインを融合したコミュニティスペースとして、このサンパティオの3階を存分に活用してほしいですね。「Toyonaka Venture」に集まってきたクリエイターは「それぞれが仕事を得て成長していけばいい」という考えだとたぶんうまくいかない。むしろ、この場が全体として成長していかなければならないんですよね。まさに「Toyonaka Venture」は次のステップに踏み出しています。仕事の案件を紹介するというだけだと、このコミュニティの付き合いがお金の関係になってしまいます。この関係で止まってしまうのは本意ではないんです。「Toyonaka Venture」は、地元の豊中という街を活性化させるのが目的ですから、街が抱えている課題や問題に貢献していかなければならないと思っているんですね。例えば、子どもや子育ての問題や、高齢者介護や介護福祉の問題など、どの地域でも抱えていますが、「子ども×介護福祉」の掛け算をやったらどうだろうと企画が立ち上がるわけです。僕たちが子どもの頃には介護福祉の仕事に接する機会ってほとんどありませんでしたから、単純に「知らない」からこそ「しんどそうだ」と思うわけですよ。これが旧野田小学校で始めた「豊中子ども報道」に繋がりました。子どもたちによる動画撮影や編集を、福祉関係のところに取材に行こうというものです。そうすると縁がつながるんですよ。豊中の福祉団体の人が声をかけてくださったり、クリエイターの中にいた元教師の人や予備校に勤務していた人が手を挙げてくれたり。一気にプロジェクトが走り出して、予算化からキャッシュポイントまでのシミュレーションができていました。
――さて、豊中市民にどうやってブランディングをしていきますか?
「Toyonaka Venture」の活動内容そのものを知ってもらおうということではなく、どちらかというとアベンジャーズ(注:アメリカン・コミックスに登場するヒーローチーム)に近い存在になるのが理想形だと思っています。一般の市民の皆さんには「Toyonaka Ventureに頼めば何とかしてくれるだろう」というブランディングだけできればOKだと思っているんです。コミュニティが大きくなればなるほど、案件の大きさ、手掛けていく街の課題が大きくなってくるので、それを成し遂げた時には、みんながいつの間にか「Toyonaka Venture」にお世話になっていることになる。「Toyonaka Ventureが来るから大丈夫だ」というポジショニングを取れれば、きっと最強ですよね。僕個人の在り方も、Cloud Illusionという会社の在り方も、そして「Toyonaka Venture」の在り方もすべてそうあるべきだと思っています。
――大隅さんたちアベンジャーズが豊中の未来を豊かにしていくということですね。
僕たちが描いている理想像「豊中をシリコンバレーにする」ということをきっかけにして豊中がITの街になっていけば人口をもっと増やせるんじゃないかと考えています。特にこの庄内の街が「あの街があるから行こう」「子育てしやすい街だよ」「子どもの勉強の環境が整っている街だよ」というところにまで繋がっていったら最高ですよね。だからこそ、行政の人達も含めて、豊中のいろんな人達とお話をさせていただいています。最終的にはITの枠も超えて、「豊中はプライベートもビジネスも住みやすい街だね」と言われるような豊かな街にしたいと心の底から思っています。
――今は夜な夜な涙することはなくなりましたか?
泣くことはなくなりましたが、「お金だけが目的で人が集まっていないか」とか、「自分のポジションが天狗になっていないか」とか、「感謝しきれているのか」などとリフレクションする時間を、週1回は絶対設けるようにしています。なぜかというと、僕の性格上いいことがあると調子に乗るんですよ。だから自分の言動をもう一度振り返るんです。母が道徳に厳しい人だったことが大きいと思いますし、前職時代の小林一博社長の影響もあります。「裏切られはしても、自分から裏切ったらだめだ」とか「感謝しきれているのか」とか「本当に心の底から思っているのか」とか、考える時間を持つことで、以前のように涙に暮れるということはなくなりました。自分に対してはしんどくなる時はありますが、リフレクションすることで、「自分が本当はどうすべきだったのか」という自分の使命に落とし込めるからこそ、また一週間がんばれるようになるんです。意外と「なんだ、小さい悩みじゃないか」とあっさり解決することが多いと、やっと気づきました(笑)。
株式会社Cloud Illusion 代表取締役 大隅直人さん
http://www.cloud-illusion.com/
Toyonaka Venture インスタグラム
https://www.instagram.com/toyonaka.venture/
【取材後記】
新連載インタビュー第1回「豊中をシリコンバレーにしたい人」はいかがでしたでしょうか。大隅さんの言葉からは、ピンチを乗り越え、使命感を持って自分の道を切り開いていく姿勢がひしひしと伝わってきました。大隅さんの物語を通じて、皆さん自身も「豊かに生きる力」を見つけ出すヒントを得られたでしょうか。これからも、豊中で輝く人々を紹介しながら、その「生きる力の種」を読者の皆さんと一緒に育んでいければと思います。次回のインタビューもどうぞお楽しみに。皆さんの日常にささやかな刺激とインスピレーションをお届けしていきますね。なお、このインタビュー記事は豊中市の情報発信を共に推進する外部人材として、たねとしおが担当しています。
【取材・文】たねとしお/1966年岩手県生まれ。明治大学文学部を卒業後、株式会社リクルートに入社。関西支社勤務時代には曽根に在住。リクルート卒業後は「男の隠れ家」出版局長を経て、現在は株式会社案の代表取締役社長。東京と京都を拠点に全国各地を取材で駆け回る。2024年3月立命館大学大学院経営管理研究科(MBA)を修了。学びのエバンジェリストとして、現在も京都大学で学びを継続しながら社会人のリスキリングを広めている。歌とワインとクルマが大好き。